建築・デザイン学部設立記念連続セミナー 第5回講演会レポート〈2023年12月16日 大西麻貴〉

共立女子大学 建築・デザイン学部設立記念 連続セミナーが2023年12月16日(土)に開催されました。最終回となる第5回目は建築家の大西麻貴氏をゲストスピーカーにお迎えし、第1部を大西氏の講演会、第2部を大西氏と教員、学生とのトークセッションとして、対面とオンラインで行いました。

第1部では「愛される建築」をテーマに学生時代から現在に至るまでを語っていただきました。
ご紹介いただいた事例は6プロジェクトとなり、個人宅から福祉施設やミュージアムまで、公幅広い分野での実践例となりました。
また、この紹介事例は学生時代に手がけたものから直近に完成した事例までとなっており、氏の来歴と考えの深化をたどるように展開していきました。

「愛される建築」とはご自身が学生時代から今に至るまで常に掲げているテーマであり、現在では以下の言葉で定義しているとのことでした。

「愛される建築」
 ・分節的というよりは、一体的
 ・組み立てるというよりは、生まれ育っていく
 ・美しいというよりは、愛おしい
 ・アノニマスというよりは、個性がある
 ・人工物というよりは、生き物のような
 ・「ある」とおいうりは、「いる」

講演の中では建築のスタティックさをどのようにダイナミックなものとして捉え直し実践していくかが語られました。ダイナミックという言葉には強い動的な意味合いがありますが、ここで語られいたものはもっと柔らかであったり詩的な意味合いが強く、包摂的なものでした。
定義の中の「生き物のような」に象徴されるように、不要となったら取り壊すのではなく、その意味を変化させて成長可能な存在となれる方法が模索されており、建築物そのものや利用者の変化などに呼応して、未来に現れる愛されいる建築となった姿を見据えて一つ一つ丹念に設計している姿勢が見て取れました。
また、それを可能にするために設計段階から関係者とのコミニュケーションを大事にし、その建築の持つ意味や存在を一緒に紡ぎ、その建築物の愛し方を構築していくプロセスが語られ、大変感銘を受けました。

紹介事例
 1 千ヶ滝の別荘 (長野県)
 2 Good Job!センター香芝 (奈良県)
 3 二重螺旋の家 (東京都)
 4 居住滞在型インキュベーション施設 toberu2号館 (京都府)
 5 シェルターインクルーシブプレイス コパル (山形県)
 6 熊本地震ミュージアム 旧東海大学阿蘇キャンパス 記憶の廻廊 (熊本県)

第2部では学生と堀学部長と草薙助教も登壇し、学生とともにトークセッションを行いました。課題への取り組み方、考えを突き詰めるための方法、建築家を志した原体験など、多岐におよぶ質問があがりました。学生たちの今まさに抱えている思いや悩みに、自身の体験を織り交ぜながら寄り添うように回答する様子が印象的でした。

特に活発な応答がなされた対話に感性の重要性がありました。整然として聞き取りやすい語り口で、ロジカルな印象の大西氏ではありますが、学生時代はさまざまな建築的条件や理念を統合することに大変苦労していたとのこと。そんな中、最終的に建築は感性によって成されるとの教員からの教えに気付きを得、自身の軸を見つけることができたエピソードが語られました。さらに感性という概念をパーソナルで身勝手なものではなく、対話や共感にこそ現れるもとして、拡張した捉え方をされていることが印象的でした。まさに第1部で紹介された設計プロセスの原点を開示していただいた回答でした。

プロフィールを辿りながら自身の実践を開示していただいた本公演は、学生たち自身のキャリアを考えるための示唆に富んでいました。また、教員としての視点からも学生たちへの関わり方や教育へのヒントを得ることができました。

文:建築・デザイン学部 助教 小野哲也

大西麻貴(Maki Onishi)
1983- 愛知県生まれ
2002- 南山高等学校女子部卒業
2006- 京都大学工学部建築学科卒業
2008- 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了
2008- 大西麻貴+百田有希 / o+h共同主宰
2016- 京都大学非常勤講師
2017- 横浜国立大学大学院Y-GSA客員准教授
2022-横浜国立大学大学院Y-GSAプロフェッサーアーキテクト(教授)