建築・デザイン学部設立記念連続セミナー 第2回講演会レポート〈2023年7月1日 小泉誠氏〉

2023年7月1日、本学本館地下B101教室にて、家具デザイナーで建築家の小泉誠氏の講演会が開催されました。講演会には、本学の学生、教職員のみならず、学外からも多くの方が聴講にいらしていただきました。また、講演の様子はオンラインでも配信され多くの方にご視聴いただきました。

開催にあたり、小泉誠氏のプロフィールの紹介、本学建築・デザイン学部学部長堀啓二教授による開催の挨拶があり、続いて小泉誠氏の講演になりました。

講演にあたり小泉氏は、「建築とデザインで未来をつくる」というテーマでお話になるということ、そして講演では「日本における家具デザインとは何か」「道具の変遷・歴史」「デザインの現況」「ものつくりの事例紹介」があり、そして「小泉氏自身の活動と作品紹介」をお話しくださいました。

小泉氏ははじめのテーマとして、「誰のためにデザインをするのか」と問いかけられ、
①社会のため
②消費者のため
③自分のため
④製造者のため
と4択を聴講者に示されました。

会場では挙手で回答し、②>①>③>④のような結果になりました。それに対し小泉氏は、①について、「自分でも考えてみたのだけれどよく分からなかった」とおっしゃり、また、②については「これも誰のことなのだろう」と自問することになったそうです。③の「自分のため」と答えた聴講者に対して小泉氏は、「とても良いね」と破顔され、「自分も若い頃はそうだった」とおっしゃりました。そして、「製造者のため」について、ご自分ではこの点が今、一番ウエイトが大きいかも、とおっしゃりました。それは、①〜④すべて大切なことではあるけれど、製造者はモノをつくる際には必ずいて、そしてデザイナーである自分の目の前にいるということ。このことをとても大切に思うと話され、このことが今回の講演会全体のテーマになるのかもと期待が膨らみました。

続いて、小泉氏は「自分は家具デザイナーである」とおっしゃり、「では、家具とはなんだろう」と問いかけられました。それに対する答えは「(一般的には)家具とは逆さまにすると落ちるもの」であるとし、我が国では幕末までほとんど「家具」がなかった。その代わりに、例えば書院のように建築と一体であったと事例を示しながら紹介くださいました。そのことから小泉氏は、欧米とは違って「家も道具である」という考えに辿り着いたとおっしゃいました。

そして、スライドは道具の変遷の紹介になり、1万年前の石器時代から、文字が生まれ広まった時代、手書きから印刷術が広まった時代、1600年頃に商店が広まりそのために「売るための道具」や「流通のシステム」「生産地と消費地」が形成されたと解説してくださいました。その後、産業革命が興り機械化が進むと「かたちを決める人」が登場し、それがバウハウスをはじめとした近代デザインにつながるとご紹介くださいました。

お話はさらに、第二次大戦後の復興期、高度成長期、グローバル化の時代、バブル崩壊後の国内産業の空洞化のお話し、と続きました。ご自身は「歴史はもともと嫌いだった」とおっしゃっていましたが、ともすれば硬くなりがちな歴史をデザインの話と結びつけながら誰にでも分かるようにお話くださったことがとても印象的でした。

歴史をおさらいした後はご自身の経歴をお話しされました。ご自身がデザイナーになった頃はデザイナーというとちょっと胡散臭い人、製造現場の人からは会社が連れてきた訳の分からないことをいう人等との偏見もあったそうです。その流れから、デザインには三つのデザインがあると解説されました。それは、「すぐに売れるデザイン」「売れないけれど有名なデザイン」「じっくり売れるデザイン」の三つで、小泉氏は三つ目の「じっくり売れるデザイン」を今、大切に思っているとおっしゃいました。

ここから小泉氏の活動をご紹介いただき、15年前から続けている盛岡の南部鉄器のお仕事、大分の竹細工のメーカー、旭川の箱物家具メーカーのお仕事などを詳しく、楽しくご紹介くださいました。それらのお仕事では、当初は現場の人が話を聞いてくれないことが多く、まずはコミュニケーションをとることから始めたとのことです。

その一つの方法として、ハガキサイズのカードを用意し、現場の人たちの話を聞きながらそれを絵にして並べてみることにより、現場の方たち自身も見えていなかったみなさんの考えや技術が明らかになるのと同時に、お互いの垣根を低くすることにも役立ったそうです。コミュニケーションをとることが難しい場面でどのようにブレークスルーするのか、その方法を考え実践することもデザインの一部なのだと教えていただきました。

まずは仕事の話をあまり語らずに工場で飲み会を開くことや一緒に記念写真を撮ること等、コミュニケーションを頻繁にとることにより小泉氏自身も現場の職人さんたちが持っている高いスキルを知ることができ、その工場でなければできないことは何か、という発想から数々のアイデアが生まれたそうです。これらのお仕事は樹木が育つように次第に成果が現れ、数々の作品が生み出され、今では現場で生産していらっしゃる人たちにとっても誇りになっているとのことです。

小泉氏はこれらの活動を依頼があった工場の売上が上がることのみを目標とするのではなく、そこで働く人誰もが自身の仕事に誇りを持つことができ、地元の子供達に憧れられる職場と思われるような生産の拠点にしたいとのお話がまた印象的でした。それでなければ、我が国から産地がなくなってしまう危惧がありこのような活動を続けているそうです。

講演の最後に小泉氏から、
「デザインとは、誰かとどこかでつくるもの。つくることを託せる人をいること。何をつくるかではなく誰とつくるか」そして
「時間をかけてじっくり、ゆっくり。ものつくりは人づくり」と締めのお言葉をいただきました。

講演会の後は本学学生を交えてトークセッションが行われました。
学生から小泉氏への質問は、

Q:生活のどのような場面からデザインを考えるのでしょうか?

A:相手がいて初めて必要なものが見えてくる。相手をよくみることが大切。

Q:生活と仕事は別ですか?

A:完全に一緒。

Q:デザインに興味を持ったきっかけは何でしょうか?

A:高校までの授業で国数理社の面白さが全く分からなかった。工作が好きだったので家具の学校に行った。そこで中村好文さんの授業を受けて今やっていることが全て結びついて勉強の意味が分かり面白くなった。

Q:国数理社の意味が分からないのになぜそのような考えに至ったのですか?

A:すべてがつながっていることに気がついて、もっと様々なことを知りたくなった。

Q:どんな木(種類)が好きですか?

A:どんなものでも好き。どんな素材が好きかとの問いならば、木が好き。木が好きな理由は、木が成長するスピードと人が成長するスピードや木を道具として使用する期間が合っているから。プラスチックは原材料からすると生成過程が数億年でしょう?木は友達のように関われます。

Q:生産者とともにつくるというお話に感銘を受けました。自分は、デザインはユーザーのためにつくるのだと思っていた。そして最後は自分が好きなものをつくりたい。小泉さんはいつから生産者との協働を考えるようになったのでしょうか。

A:それは一緒だと思う。モノをつくるということは社会的責任がある。かつて一緒に仕事をしていた会社がなくなってしまったことがある。それは辛かった。

Q:つくり手を支えるモチベーション。生産者を存続させるモチベーションは何ですか?

A:つくり手を支える気持ちにはなれない。自分では支えられない。本人たちで立たなければならない。そういう人たちと友達や家族のように関わっていきたい。そういう関係を持てることが幸せ。

Q:昔から人付き合いは上手なのですか?

A:こう見えて結構人見知りなんですよ(笑)。良い雰囲気を一緒につくりたい人とモノをつくっていきたい。誰とでも、というわけではないです。素直に息をしていたい。そこから良いものが生まれると思う。

Q:センスがないのだけれどもデザインすることは好き。どうしたらセンスを身につけられますか?

A:センスとは努力だと思う。誰でも持てます。

Q:自分の考えとクライアントの考えが違った場合どうしますか?

A:まず、相手が本気でない場合はその仕事は受けない。実際、途中でやめた仕事もある。相手が覚悟を持っている場合に限るが、もしクライアントと考えがすれ違うことになったら、その時はもっと良くなるチャンスだと考えることにしている。ピンチは幸せ。

ここで、本学建築・デザイン学部デザインコース石田和人教授より、質問が。

石田:今、小泉さんの手元に何やら道具のようなものがありますが、それは何でしょうか?

小泉:これですか?学生のみなさん、これは何だと思いますか?

学生:(各学生が順番にその「道具」を手に取り考える)「時間を測るタイマーとか?」

小泉:ああ、タイマーね。確かに何かを測るものです。

学生:「何か数字が書いてあります。うーん、分かりません」

小泉:「それの角を触ってみてください。角がそれぞれ触り心地違いませんか?これはその角の丸み=Rを知るための道具です。家具や道具のデザインをしていると角をどの位のRにするかということがとても大事になってきます。そのような道具は世の中にないので自分でつくりました。自分はいつもこの道具を持ち歩いていて、常にその角のRの感覚を持つようにしています」

最後に、小泉先生から学生にメッセージが。

「覚悟を持っているつくり手が生み出すものからはその背景が伝わる。誰がつくったか分かるものは、人は大事にする。それはつくり手の誇りにつながる。その仕組みづくりをしているのだと思う。モノを大事に。人を大事にしていきたい」

小泉誠氏のお話は、ものづくりの話から、人と人の繋がり、そして産業と地域の話と多岐に渡り、それらが大きな連環をつくり社会となっていること。そしてそれらを考えることがデザインそのものだということを学ぶことができました。

小泉先生、お忙しい中、貴重なお話をどうもありがとうございました。

文:住生活研究室 稲葉唯史
写真:ビジュアルデザイン研究室 水川 史生

小泉誠(Koizumi Makoto)
1960年東京生まれ。木工技術を習得した後、デザイナー原兆英(はら ちょうえい)と原成光(はら せいこう)に師事。1990年Koizumi Studio設立。2003年にデザインを伝える場として「こいずみ道具店」を開設。建築から箸置きまで生活に関わる全てのデザインを手がけ、現在は日本全国のものづくりの現場を駆け回り地域との恊働を続けている。2015年には「一般社団法人わざわ座」を立ち上げ、手仕事の復権を目指す活動を開始。武蔵野美術大学名誉教授、多摩美術大学客員教授。2012年毎日デザイン賞・2015年日本クラフト展大賞・2018年JIDデザインアワード大賞・IF DESIGN AWARD 2023など国内外の受賞多数。