福島県 南相馬市
設計趣旨:中心をつくる
2016年の秋、除染は終わっているもののまだ立入禁止が解除になる前に初めてこの地を訪れました。
何もかも失われてしまったというのが敷地周辺の第一印象でした。人っこ一人見当たらず、海水を被ったままの草地の彼方には居久根(イグネ)と呼ばれる屋敷林だけが点在し、反対側には海が輝いていました。
風を防ぐものは何も見当たらずただただ平坦で、何を手掛かりに設計したらよいか呆然とした記憶が脳裏に残っています。しかし同時に、この場所を復活させるためには、すべてが失われた環境の中に「建築で中心をつくる」ことではないかと考えたことも思い出されます。
様々なロボットを製作し、実証実験ができる施設全体は「福島イノベーション・コースト構想」の中核をなすものであり、人に代わる「装置」の創造を通して、地域の復興に資するものと位置付けられています。
この建築はその中心となる研究実験棟です。
地域復興のためには研究実験施設だけでは不足で、ここを使う誰でもが集うことができ「共同して価値を生み出す場」が必要だと我々は考えました。建築の中央に張弦梁とテフロン幕で覆われた内外に渡るアトリウムを設けたのはそのためです。研究の機密性と人々の交流性を両立させるため、このアトリウムを中心に全ての施設を内柔外剛のロの字型一体的配置としました。
1階に事務管理・情報発信・試作試験、2階に研究・研修と明解な機能構成とし、それらをつなぐ交流の場をアトリウムに面して設けました。外に対しては、通風採光を確保するスリット窓と限定されたゲートを設け、機密性を確保しました。一方内側は、カーテンウォールを用いた開放的な設えとし、交流性を重視しています。
完成から1年半が経った今、研究から性能試験評価、実証試験等までスムーズにおこなえるロボット開発の場は、交流機能も併せ持ち、地域復興の一端を担いつつあります。
3つの屋根
屋内試験場の立体トラス(30m×30m)
鉄筋コンクリート壁の頂部で水平剛性を取り屋根仕上げを容易にするために、上下弦材を45度ずらす計画としました。
トラス空間を綺麗にみせるのは接合部と構造材の色です。下弦材については点で交わる様な接合部としています。
中庭膜屋根の整形グリッドアーチ(25m×25m)
一見普通に見えますが高難度のスレンダーなアーチ型膜屋根です。
80mm厚のフラットバーとH型鋼による2,7mピッチの整形グリッドアーチとし水平ブレースを設けない架構形式としました。
エントランスラウンジ周りの鉄骨鉄筋コンクリート張弦梁
張弦梁の端部は特別な接合部を工夫し、梁を介して幅200mmの細柱に取り付けることで、テンションロッドが端部まで伸びた形状を実現しました。